Novelize

 



うっそうとしたジャングルを横手に進むと古代遺跡が見えてくる。
かの有名な考古学者、インディー・ジョーンズ博士が発見したと言う神殿だ。
我々観光客はジョーンズ博士の助手であるMr.パコによる『パコの魔宮ツアー』に参加する為、この未開の地まではるばる旅を続けてきたのだ。
……もちろん、ただ古代神殿を見たいと言うそれだけのはずもない。
皆、まことしやかにささやかれている噂の真実を求めてやってきているのだ。
━━━神殿の奥に隠された若さの泉の水を飲めば、人は老いの恐怖から解放される━━━
もちろん、この文明社会の世の中で、そんな噂を頭から信じているものなどいるはずもない。
だが……だが、もしかしたら。
そう思わせるだけの神秘的な何かが、この森にはあった。
疑惑と欲望とをその胸に隠し、無邪気な一観光客を装って。
何かに吸い寄せられるように我々はこの森へとやってきたのだ。

神殿の中は思いのほか明るかった。
どうやら我々ツアー客が入ってきた入り口は後に整備された新しいものであるらしい。
天井に、あれは井戸だろうか。
小さな穴が開いて、縄梯子のように蔓がぶら下がっている。
インディー博士達はきっと最初そこから侵入したのだろう。
木漏れ日のように落ちる光はひどく頼りないものの、通路に沿って吊るされたランタンの光も合わせれば、辺りを見回すのに支障があるほどでもない。
私は壁一面に描かれた壁画を見渡した。
古代マヤ文明の特徴をよく示したそれは、戦士達の図であるらしい。
傷つき、年老いた戦士達。彼らが見つめるその先にあるのは……若さの泉。
その泉の水を飲んだ兵士は若さを取り戻し、雄々しく大地に立っている。
この壁画たちは、この神殿の、若さの泉の効能を表しているのだ!
私は沸きあがる興奮を抑えることができなかった。
確かにこの神殿の奥に、若さの泉は存在する。
そして、その力を持って古代マヤの戦士達は、無限の力を手にしていたのだ。
だがしかし、ふと足元に視線を落とし、私は思わず凍りついた。
頑丈に組まれた足場のその下に、無数の骸骨達がひしめき合っているではないか。
その体はねじれ、あるいは二つに折れ、何か強い衝撃を受けたようだ。
……まるで誰かに突き落とされたかのように。
その断末魔の様子に何か不吉なものを感じずにはいられない。
私は引き剥がすようにしてその遺体から目を放し、ツアー列にはぐれないよう魔宮の奥へと進んでいった。

それからしばらくは穏やかな道のりだった。
石造りのしっかりとしたつくりの建物の上、要所要所に組まれた手すりや足場のおかげで、特に歩くのに苦労することもない。
博士達考古学チームの備品や研究成果、神殿発見当時の新聞記事などが展示されている。
それをを見学しつつ、私は神殿の奥へ奥へと進んでいった。
順路に沿って進んでいくと、唐突に大きなスクリーンが視界に飛び込んできた。
古ぼけた布を張った手組みのスクリーン。
粗い映像に写っているのはこのツアーの主催者、Mr.パコだった。
彼はジープに乗る際の注意事項などを簡単に説明すると、おどけた笑顔で消えていく。
ついに神殿の最奥部に入るのかと思うと武者震いがするとともに、なんとなく悪寒のようなものを感じずに入られなかった。
だが、もはやそんな弱気なことを言ってはいられない。
私は腹をくくってジープに乗り込んだ。

滑り出しは意外なほどに順調だった。
不気味な光の漏れる通路をゆっくりと進んでいく。その先に見える光り輝く大きな水晶髑髏……
突然、ジープがスピードを上げて走り出す。
建物の中だというのに雷鳴が響き渡り、不気味なうなり声が響き渡る。
右手に大きな両開きの扉を必死で押さえている男が現れる……あれはジョーンズ博士?
「君達、何をしでかしたかわかっているのか?!」
博士が叫び声をあげる……一体どういう意味だ?
このツアーは彼の助手が主催しているはずで、つまりは博士公認ということではなかったのだろうか。

疑問を口にする暇もなく、ジープは闇の中を走りぬけていく。
博士の追求から逃れるために?否、一瞬でも立ち止まればそれが死を意味するから、だ。
鳴り響く轟音、火を吹く喋る石像、おびただしい毒虫、吹き矢を吹く壁。
どれも間一髪、首の皮一枚でかわしながら私たちの乗るジープは当てもなく疾走を続ける。
つり橋を渡り、真っ暗な中を突き進み、幾度も壁に激突しそうになりながらひたすら奥へと進んで行き……そして真っ暗な一本道へとたどり着く。
そこで待っていたのは先回りをしていたジョーンズ博士。
天井から垂れ下がる蔓草につかまっている。
そしてどこからともなく伝わってくる振動と次第に迫り来る轟音。
「お〜い、気をつけろ! 嫌な予感がするな・・・。 危ない!」
いっそのんきともいえるような彼の声が、一転緊迫感を帯びる。
その視線の先にあるのは巨大な石球。通路いっぱいの大きさでこちらへと迫ってくる。
だがここは一本道、逃れる場所もない。
ジープをバックさせて全速力で逃げたとしても、すぐに追いつかれてしまうだろう。
絶体絶命のピンチの中、誰かが叫んだ。
「下だ!下に行くんだ!!」
とたんジープはまっさか様に落ちて行き……
私たちは一階層下の通路にいた。助かった……のだろうか?
ほとんど慣性力だけでジープは進み、まもなくジョーンズ博士も姿を現した。
我々のあとを追って床の穴に飛び込んだのだろうか。
追ってきた石球は壁にめり込んで何とか泊まったようだ。
「たいしたもんだ!全く。君達はよくやってくれたよ。」
呆れ顔で苦笑いをし、彼は帽子で進むべき道を示してくれた。
「よくやった。あとは自分達で切り抜けるんだな」
そうして私たちは神殿を抜け、ジャングルの空の元へと戻ることができたのだ。

……と、そこで話が終わるはずもなく。
正規考古学研究班から当然我々はひどく説教を受けることになった。
何でもこのツアーはパコ氏が無断で開いたもので、研究班の許可を得たものではなかったらしいのだ。
身を清めることもせず、欲望のままに神殿の静寂を破った異教徒にマヤの神が怒るのは当然だというわけだ。
そして考古学者たちは言った……若さの泉など存在はしない、と。
だが、はたしてそうだろうか。
あれだけの数の罠が、そして不思議な力を持つ石像たちが、何の意味もなく存在しているのだろうか。
そして私は見てしまったのだ。つり橋の下に、怪しく輝く小さな泉を。
クリスタルスカルの魔宮の中に、まがまがしい光を湛える若さの泉を、この目で見てしまったのだ。

※太字は実際劇中のジョーンズ博士の台詞です。
と、言うわけでお粗末さまでした。

 

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